【ゲームレビュー】対ジョコビッチ12連敗 見えてきた希望の光と立ちはだかる高い壁(2018ローマQF 錦織vsジョコビッチ)

 

2018.05.18

Rome (Masters)   Quarter-Finals

[11] Novak Djokovic   26 61 63   Kei Nishikori

対ジョコビッチ12連敗 しかし、その内容は…

錦織はあの2014全米での勝利以来、約3年半に渡りジョコビッチに一度も勝てていません。今回の敗戦で12連敗。内訳はグランドスラム1、マスターズ8、ツアーファイナル3

特にマスターズでことごとく優勝の夢を阻まれています。錦織の現時点までの全盛期とも言える2016年に、マイアミF、マドリードSF、ローマSF、カナダFと4大会連続ジョコビッチに止められたのは記憶に深く刻まれているファンが多いでしょう。

今度こそは、と思い続けて12連敗。錦織本人にとっても、ファンにとっても心にくる敗戦ではありますが、今回はかなり肉薄した内容でもありました。

12連敗中、ファイナルセットまでもつれたのは今回で4回目。うち2回はファイナルセット6-0や6-1と突き放されての敗戦。本当の意味で惜敗と言えるのは、ファイナルセットタイブレークの末にわずか2ポイント差で破れた2年前のローマSF、そして今回の2試合くらいでしょう。

両者のプレーレベルも、もはや完全復活と言っていいほどの素晴らしいゲームでした。本当は全仏展望記事からテニスブログをスタートするつもりで準備していたのですが、こんな試合を見せられてしまったので緊急で初記事を書くことにしました。

試合の流れを振り返ってみる

ジョコビッチが試合後にこう語っていました。

「僕らのプレーはよく似ている。いたちごっこなんだよ。」

正直、今まではあまり錦織とジョコビッチのプレーが似ていると思っていませんでした。もう少し正確に言うと、錦織とジョコビッチが似たようなプレーの応酬で打ち合っているところをあまり見ない印象でした。

錦織の攻撃的ショットが入り続ける時間帯は、ジョコビッチはひたすら耐える。一本でも多く打たせて、嵐が過ぎ去るのを待つ。嵐が過ぎ去ったら、一気に仕留める。ジョコビッチは自分がいかに良いプレーをするかと言うことより、いかに錦織に気持ちよくプレーさせないか、と言うことを考えてプレーをしている印象が強かったのです。

ただ、今日の展開は少し違いました。

1stセットはまさに嵐の錦織。凄いショットが次々に決まり、ちょっと手をつけられない感じでした。そんな中、特にセット終盤はジョコビッチがドロップ打って見たり、ペースを変えて見たり、無理攻めして見たり、といろいろなことを試しているように見えたのが少し気になっていました。

そして2ndセット。ジョコビッチは一気に攻勢を強めてきました。錦織が落ちるのを待つのではなく、錦織を上回るべくギアを上げて攻撃してきました。

1stセット:錦織 W12、UE8  ジョコ W7、UE9

2ndセット:錦織 W5、UE5  ジョコ W12、UE9

※W→Winner、UE→UnforcedError

このスタッツが全てを物語っているかと思います。ジョコビッチの攻撃レベルが上がり、錦織は仕掛けることすら難しくなった。何とか仕掛けたところでも、ジョコビッチに凌がれ、気づくと攻め込まれている。そんなポイントが続きました。

ファイナルセットは両者、心身ともにギリギリの凌ぎ合いでした。体力的にかなり厳しい中、精神力で何とか持ちこたえる、特に錦織からはそんな様子が伝わってきました。両者UEも急増しましたが、この状況で責められるところではないと思います。

今回は今までの対戦よりもジョコビッチは攻撃的な戦略、錦織は冷静に無理攻めを減らす戦略が全体的に目立ったかと思います。そのため、確かによく似たプレースタイルの選手同士に見えました。

ただ、似たプレースタイルの選手同士が対戦すると往々にあるのが、「少しでもクオリティが高い方がスコア上では圧倒する」と言うことです。1stセットは錦織が、2ndセットはジョコビッチが少しだけ高いクオリティを保ったため、それぞれ大差のゲームカウントとなりました。

そして、最終セットに入り、プレーレベルをより落とさなかったのがジョコビッチだったと言うことです。

なぜ今回も勝てなかったのか

対戦成績が圧倒している組み合わせの場合、負けが込んでるプレイヤーがメンタル面で自滅してしまうことがあります。僅かな綻びにプレッシャーを感じ過ぎてしまい、自分でペースを崩してしまうパターンです。例えば、今年のモンテカルロの錦織vsベルディヒなんかが良い例かなと思います。

錦織vsジョコビッチでも、錦織が過度にジョコビッチを恐れて無理攻めを続けた結果、UE量産して敗戦と言うパターンを何度も見ました。しかし、少なくとも今日はそのようなメンタル面の失策はほぼ無かったと言っていいと思います。

ではなぜ勝てなかったのか。

私が考える理由は大きく二つです。

一つ目は体力面の問題。

錦織はファイナルセットの鬼と形容されるほどファイナルセット勝率が高い選手です。今年もモンテカルロのチリッチ戦、サーシャ戦、ローマのディミトロフ戦をはじめとして、多くのフルセット勝利を収めています。しかし、ことBig4相手に限ると、ファイナルセットに持ち込んでもなかなか優位に立つことができていません。

これは体力面に寄るところが最も大きいと思っています。Big4相手では気を抜ける場面がほとんどなく、フルスロットルで戦い続けた結果、最後は体力的に厳しくなる、ということです。その点、Big4は厳しい試合を複数続ける体力も備わっていますし、試合中にペースをコントロールして省エネをするということも平気でやってきます。

そしてもう一つはギアの切り替えです。

今日のジョコビッチは2ndセットから意図的にプレーレベルを上げてきました。2ndセットでギアを上げ、ファイナルセットはその惰性で乗り切る、そんな試合全体を見越したペース配分が本当に上手でした。このようなペース配分が、特にジョコビッチとマレーは上手だなと思います。

そしてナダル、フェデラーも含め、Big4は皆、意図的かつ能動的にギアを上げることができます。普通は力んでミスが出たりすると思うのですが、テンションを上げて結果に繋げられるのが彼らの凄いところです。

錦織は良くも悪くも感覚的なところがあるので、なんの前触れもなく突然プレーレベルが上がったり下がったりすることがよくあります。昔よりはだいぶコントロールできるようになってきている気もしますが、ここの差は勝敗に大きく影響しているのではないかと思います。

全仏に向けて

次は全仏です。マスターズももちろん大事ですが、やはりグランドスラム。ここで良い成績を残すことが最も重要です。今回ローマで見せたようなプレーができるのであれば、全仏の錦織にはかなり期待していいと思います。

展望はまた別記事で書こうと思いますが、今年の全仏は錦織に限らずかなり楽しみです。

今回の試合を見る限り、錦織ジョコビッチともに復活と言って良い状態。クレーキング・ナダルは相変わらず圧倒的な強さを見せつけ、次世代のNo.1候補サーシャ(アレクサンダー・ズベレフ)は貫禄すら漂わせはじめている。クレーキングの後継者候補ティエムの奮闘、本来クレーは苦手なはずのチリッチ、アンダーソンの活躍、輝きを放つ次世代スター候補のシャポバロフ、チチパス。注目選手を挙げ始めたらキリがありません。

全仏が素晴らしい大会になること、そしてまだ3試合残っているローマも最後まで素晴らしい試合が続くことを祈って。

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